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仮面の世界

「アフリカ美術」といえば、木製の仮面や彫像が思い浮かぶ方が多いのではないでしょうか。20世紀初頭 、ピカソやマティスら前衛芸術家がアフリカの仮面や彫像に目を留め、収集をはじめ、彼らの表現の新しい形態の探求において、アフリカ彫刻は大きな影響を与えました。それから欧米の各地で木製の仮面や彫像を中心としたコレクションが形成されていきました。

西アフリカではたくさんの部族が儀式や祭祀に仮面を用います。仮面は、神話に登場する神々、精霊、人間、動物などがかたどられています。とても珍しい例として、女性の秘密結社もありますが、一般的に仮面の管理や仮面舞踏は成人男子による秘密結社によるもので、仮面に関わることは女性や子供から隔てられたところで行われます。選ばれた男性が仮面を頭に被り、衣装を纏って、人々の前で音楽とともに踊ります。太鼓の音に体を震わせ、中身の男性は人間ですが、仮面がかたどる神や精霊として振る舞います。人間は、古来より目に見えないものを視覚化し、それと関わることで見えないものの力をコントロールしようとしてきました。人々は、それぞれの神話世界や伝承に基づき、神々や精霊のイメージを視覚化し、それを儀礼に用い、生きるための拠り所としてきたのです。

西洋世界におけるモノ

仮面や彫像など、もともとは儀礼の道具としてその社会の中でだけ使われていたモノは、だんだん他者に向けた商品になりました。隣り合う民族や権力者への交易品や献上品、探検家が持ち帰った「プリミティブなモノ」、植民者の日用品として需要が増えたものなど、外との接触があったところに商品が生まれました。

19世紀後半、ヨーロッパの植民地支配が拡大するとともに、西洋人の未知の大陸や植民地の人やモノへの興味は高まっていきました。欧州各地では万国博覧会が開かれ、世界中から様々な製品や美術品が集められ、当時のヨーロッパはその珍しい美に魅了されていました。
しかし、それは「珍しくて美しいプリミティヴアート」という西洋人による美的価値観のみで評価され、つくり手やそれが現地でどのような意味を持つのかについて目を向けないどころか、「未開人」には美的感覚がないとすら思われていました。(Jopling 1971)

「アフリカンアート」と西洋

20世紀初頭の西洋では 、植民地主義者によって非西洋から集められたモノが二つのカテゴリーに分けられるようになりました。一つは審美的な「芸術作品」。もう一つは民族の伝統を象徴する「文化的器物」。さらに、それぞれについて真正性が疑われるモノは「非文化」と「非芸術」に分けられました。これを基準に、モノが美術館や博物館、そして人類学というアカデミックな学問のなかに制度化されていきました。そのシステムは、欧米的近代に特有のものであるにもかかわらず、人類に普遍的な価値基準として芸術市場やアカデミズムによって権威づけられてきました。(Clifford 1988)

長いあいだ欧米の美術界やアカデミズム界は、アートを特権的な価値あるものとして流通させ、それは世界中に広まりました。美術評論家のダントは、あるモノをアートと認識させる目に見えない制度を「アートワールド」と呼びました。
私たちが日頃感じる、あいまいな「アート」のイメージや、「アフリカンアート」に対する意識もこのような概念を通して作り出されたものであると言えます。
アフリカの造形は西洋的な美的基準や近代のアートという概念によって、一方的な評価や解釈をされてきました。しかし、アートという概念は、西欧近代の産物であり、人類の歴史のなかで、あくまでも限られた人びとによるひとつの概念でしかありません。常に評価される側であったアフリカの造形の本質は、私たちから見えているイメージとはまったく別の世界に生きているのです。

参考文献「つくり手の自称についての考察」緒方しらべ

仮面を見つめる

つまり、私たちの前に広がる「美の世界」というのは、西洋的な観念に縛られる必要はなく、ほんとうは想像以上に自由で、誰にでも開かれているものなのです。そして、美については「分かる、分からない」ではなく「感じるか、感じないか」ではないかと思います。感じるとは難しいことではなく、ほっぺたが落ちるほど美味しいものを食べたときや、言葉を忘れるほどの夕焼けを見た瞬間とおなじ、ごく自然な感動のことです。また、イメージは常に開かれており、受け手が様々な解釈をしたり新たな意味づけをするのも自由です。新たな解釈が新たな文化を創り出すこともあるのです。

では、その美とは、一体誰が、何をもって美とするのでしょうか。美術館や著名な評論家が決めるものなのでしょうか?グローバル化がすすみ、あらゆる情報が溢れる現代では、情報や知識をとりのぞき、己の感覚だけでものをみる機会が少なくなっています。そうした環境の中でも、ものと真摯に向き合い、自身の直感を素直に信じて感じ入り、それを繰り返しおこなって目を鍛え、自分だけの審美眼をつくることが、けっきょくのところ「美とは何か」の答えに迫る一番の近道かもしれません。
モノとどう向き合い、どのように捉えるか。モノの背景や意味を知ることによりまた新たな世界が広がり、それによって目の前のモノの見方も変わります。
まずはぜひ、Sololaの仮面や彫像をご覧下さい。お目に留まる仮面との出会いがあれば幸いです。

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1/ラゴスのギャラリー壁面に広がるヨルバ族の壁画。2/オシュン祭の風景。楽団のリズムで祭の参加者が踊る。3/マリのバンディアガラ断崖に住むドゴン族の彫刻。4/ブワ族の仮面。店には各部族の仮面が所狭しと並ぶ。5/旅の途中で見つけた「コラ」という楽器。