アディレ・エレコとは
アディレ(Adire)とは、ナイジェリアに住むヨルバ族伝統の藍染め布です。ヨルバ語でAdiはtie、reはdyeで、Tie-dye、つまり絞り染めを意味します。もともとアディレは絞りの布でしたが、型染め、手描き、ミシン絞りなど時代とともに技法が増え、今ではヨルバ族の防染された藍染布の総称になっています。なかでもとりわけ美しいのが、キャッサバのペーストで柄を描いたアディレ•エレコです。Sololaはふしぎな魅力のこの美しい布に惚れ込み、生産を始めました。
アディレ•エレコは、キャッサバのでんぷん糊で柄を描きます。筆には鶏の羽やパーム椰子製のほうきを使います。アディレの様式は、升目を引きその中に伝統柄を配置するというものです。柄にはそれぞれ意味があり、モチーフには身近な日用品や生き物、建造物やことわざなども用いられます。中には、20以上からなる柄を組み合わせた1つのパターンもあり、”Ibadandun” (=都市イバダンは最高)や”Olokun” (=豊穣の海の神オロクン)とよばれるものが有名です。
エレコとは「ペーストを使った」の意味です。エコ(またはラフン)と呼ばれるキャッサバの澱粉をペースト状にした糊で柄を描きます。キャッサバ粉と水、白または青のミョウバンを混ぜながら煮詰め、ガーゼで漉したら糊のできあがり。蒸し暑い気候のため、糊は腐りやすく、作り手は毎日新しい糊を作ります。曲線は鶏の羽根を、直線はほうきに使われるヤシの葉脈を筆にして柄が描かれます。道具と呼ぶにはあまりにも素朴で、けっして描き心地がいいとはいえませんが、描き手は器用に柄を描き進めます。文字を持たない文化のため、柄の記録は作り手の頭のなかにあります。定規や下絵なども使わず、頭のなかのイメージを布の上に再現するのです。
乾いたら、糊がはがれないよう細心の注意を払いながら、布を藍液に浸けては乾かし、深い色になるまで何度も繰り返します。糊を搔き落とすと、糊が塗られていないところは藍色に、糊を塗ったところは白く残ります。仕上げに、もう一度藍液に浸け、白く残ったところを淡い水色に染めます。ヨルバの人々のあいだではそれが美しいとされ、同時に、きちんと作られたエレコの証でもあるそうです。エレコは、男性も身につけますが、主に女性の腰巻スカート、肩掛け布やラップドレスとして使用され、特に手の込んだものは婚礼の持参品にもなりました。
ヨルバの神話世界
ヨルバ族が信仰するのはキリスト教、イスラム教、そして土着宗教です。外来の宗教と違い、土着宗教はヨルバ発のもの。独自の神話世界には、名の通った最強神から小さな神まで、数百以上の神がみがいるといわれています。日本の八百万(やおよろず)の神がみにも似た世界観です。その中には短気、おっちょこちょいの神さまなどもおり、実に人間味にあふれています。この信仰は、ヨルバの祖先が奴隷貿易によって連れていかれたアメリカ大陸でも広まりました。キリスト教への強制改宗をさせられた奴隷は、 カトリックの聖人とヨルバの神々の姿を重ねて信仰することで、奴隷主の目をかいくぐっていたのです。そうしてカトリックとの混淆によって発展したのが、ブードゥー教(ハイチ)•サンテリア教(キューバ)•カンドンブレ教(ブラジル)と呼ばれる信仰です。
アディレと関わる3人のヨルバの神さまをご紹介します。一人目はイヤマポ、藍甕の守り神です。藍染め職人は藍を建てる際に、「どうかこの藍がうまく建ちますよう、お助け下さい」とイヤマポに祈ります。二人目はオロクン、豊穣の海の女神です。エレコの一番有名なパターンには神オロクンの名前がつけられており、その別名は”Life is sweet” (人生は楽しく甘美なるもの)です。最後はオシュンと呼ばれる豊穣の川の女神です。ナイジェリアには女神オシュンが住むとされる聖なる森があり、ユネスコの世界遺産となっています。毎年そこでは「オシュン祭」が行なわれ、祭のために国内外から多くの人が集まります。エレコの生産者によると、女神オシュンが一番最初に藍染めをし、その布を夫である神シャンゴに贈ったという神話が残るそうです。